● そのどれもが、自分のなかで大切にせなあかんなって思うことで
−キセルは<カクバリズム>へのレーベル移籍後の初となるアルバム、カットマンは初となるフルアルバムと、ともにターニング・ポイントとなる一作だと思います。自分たちではこの作品をどう捉えていますか?小宮山純平 フルアルバム自体が挑戦というか。
金佑龍(キン・ウリョン / ex. 金宮たすく) だんだんずっと考えてたら、わからんようになってくるというか。(これまでのミニアルバムの)8曲くらいやったら、自分に湧き出たものを「えいっ」って作ったらよかったけど、それが12曲ともなると。
辻村友晴(弟) バリエーションは考えるよね。
佑龍 カットマン・ブーチェは「一生聴けるもの」ってテーマはいつもあるんですけど。
小宮山 アルバムを作るにあたって、去年2月に滋賀で二週間くらい合宿したんですよ。田んぼのど真ん中の倉庫みたいなところで。そこで録ったベーシックを元に、大阪で作り込んでいったと。
辻村豪文(兄) そこで録ったのがそのまま(アルバムに)入ってる曲もあるの?
小宮山 ないですね、今回は。でも次はそういうこともしてみたい。宅録のままのを入れたりしてます?
弟 ありますよ。
林周作 今回のアルバムではあります?
弟 「君の犬」とか。
カットマン一同 おおーっ! あの曲ええよなあ。
佑龍 歌詞にしても、いろいろ取れるというか。「そやなあ」って思うのは(自分の)聴いてる場面によって違ってきて、それが優しいときもあれば、ばあちゃんに戦時中の話を聞いたりした、そういうところまで連れていかれるときもあって。そのどれもが、自分のなかで大切にせなあかんなって思うことで。
兄 あれはカセットMTRで録ったのをそのまま。そのMTR自体は、この前中古屋で見たら480円で売られてた。
佑龍 僕もそれ聴いて、カセットMTR買って。
小宮山 だから買ってたんや!
佑龍 4500円くらいしたけど。
弟 家で録ったのがそのまま(CDなりの形になる)って、いいですよ。
兄 (周辺機器の)マイクとかはどんどん良いのに変わってるのに最終的にはカセット、みたいな。
弟 でもマイクだけで全然違う。“テープのいい音”みたいなのがちゃんと出せるようになってくるというか。
● これがこの曲の良さを一番シンプルに伝えられる形やな
佑龍 曲を作ってて、「こういう音がほしい」っていう確かなイメージってあります?弟 あるときもあるし、ないけどもうひとつほしい、っていう最後のひとネタに悩んだりはする。
佑龍 そういうときに、たまにホーンとかトランペットがパンッて鳴ったりするんですね。それなら自分で吹いたほうがいいんかな、とか思ったり。
弟 (ホーンの音を)口でしてましたよね。
佑龍 はい。でもホンマは本物も吹けたらいいなって。それは挑戦していきたい。(キセルの)「枯木に花」にサンプリングで入る、ラッパの「ファファファンファッファ」っていうのがめっちゃかっこいいなあって(それを聴きたいがために)何回も聴き直してるんですけど、あれって自分でやったんですか?
弟 いや、レコードの音を切って。
佑龍 あれ好きで。いつか5年後くらいに使ったろう、って。
一同爆笑
−サンプリングしたものをさらに。
佑龍 だから今日了解を得とこうって(笑)。
−今回のアルバムを制作する際に意識したことはありましたか?
兄 今回は「音数を少なめで」っていうのはあった。ライブをたくさんしてたから、シンプルにいこうっていう流れにはなってて。今までは詰め込むほうが多かったから。
−カットマンも音数減りましたよね。
小宮山 そうですね。ファーストからだんだん増えていってたけど、でもライブは三人しかいないと。それなら音数を減らして、いいアレンジができるようにしていこうって。最終的に「これがこの曲の良さを一番シンプルに伝えられる形やな」っていうのを大事にした。それがごちゃついてると「これちゃうな」って。
林 作ったものがライブでできひんっていうのはツライし。
弟 新しい曲を先にライブでやっていくと、その曲に対して整理がつくようになってくるしね。そこから音源に対して足りない音を足していけばいいわけだから。
小宮山 そういう発想いいですね。ライブではこの形でできるけど音源にしたときにこれを足したいっていう。それがなくても成立はできるし、と。
● 素直に出してるのが気持ちいい
−カットマンとキセルは、ライブの共演も多いですよね。兄 この前、ウリョン君のMCがぐだぐだになってたときに「キセルみたいになってる」って言ってたのがオモロかった(笑)。確かになあって。
(※註:07年末のカットマンのツアー「boosoul 2007 final tour」 @ 代官山ユニットのこと。キセルと曽我部恵一バンドがゲストとして出演)
小宮山 そういうのありましたね(笑)。
兄 MCもアツいなあって。デカいことも言うし。そういうのもいいなって。
佑龍 言ってしまいますね。どんどんアツいことも言いたいけど、(キセルみたいに)等身大でいられるのにも憧れるというか。僕、上方漫才が好きなんですけど、
小宮山 上方漫才!? 上方限定なんや。
佑龍 うん、キセルの音楽って懐かしいところも新しいところもあって、MCも全部ひっくるめてワン&オンリー的なところとか、こいし師匠の「僕ら一番とか、そんなんならんでいいんですわ」っていう口癖を思い出すんですよね。
小宮山 あー、わかる気するわ。
佑龍 (キセルの音楽は)そういうあったかい匂いがするのに、ライブのMCで「若い芽を詰んどかなあかんな」って言うような(笑)、そういうニヒルなところもあったり。
小宮山 言われたな(笑)。
(※註:07年初頭のキセルの全国ツアー「おじゃましますツアー」 @ 梅田シャングリラでのこと。ゲストとしてカットマンも出演)
兄 弟と同世代なのに、すごい上手いなと思って、イヤやなあって。
佑龍 「こんなこと言ってくれるんや!」って、めっちゃテンション上がった。
兄 あと羨ましいのは、素直に出してるのが気持ちいいなって。
弟 直接的というか。歌詞もライブのMCもそうやし、演奏にしても三人が前にバアンッて出てくるというか。
兄 でも(カットマンは)MCのフォローしてくれるからいいよね。
佑龍 最近してくれるんですよ。
小宮山 でも難しいんですよ。どこで切ったらいいのか。(佑龍の)MC中が一番緊張してますからね(笑)。どこまで行くんやろなあって。タイミングはめっちゃ考えてますよ。
● 「○○たい」っていうのがいっぱいあるバンドでいたい
−ともに、思い出の一場面が浮かぶような音楽だと思います。キセルは今作について「風景が見えるような」ものにしたかったと。また、カットマンのライブを見た知人が「こんな映画好き」と言ったことがあって、それが言い得て妙だなと感じたんですね。自分たちの音楽で大切にしていることって何ですか?兄 嘘にならへんようにしてるというか。嘘っていうか、格好良くなりすぎてたりとか。格好つけようと思ったらつけれるやろうし、まあそれを格好良いと(自分らが)思うかどうかっていう話もあるんですけど。自分らのちょうどいい塩梅っていう、その加減を大事にしてる。
弟 自分が落ち着くメロディがあるとして、それに対して責任を持つというか。出てくるものって、今までいろんなメロディを取り込んだものやから、まったくのオリジナルっていうのはないけど、そこからふっと混ざって出てきたときに、自分的にフレッシュでバランスのとれたものでありたい。
小宮山 「シンプルに聴こえるかどうか」は自分たちのモノサシとしてある。どれだけ音が入ってても複雑なリズムでも、すんなり聴こえるというか。例えば何かを発言するときに、頭ではいろんなこと考えてても発する言葉はシンプルじゃないと伝わりにくいっていうのと一緒で。
林 今回のリリックを書くときに、最初は戦争のこととか大きいことを書いてたんですけど、故郷の滋賀で合宿やったこともあってか、結局はめっちゃ身近なことを題材にするようになったっていうのはありましたね。
佑龍 さっきの「嘘をつかない」っていうのと似てないちゃあ似てないかもしれないですけど、「歌いたい」とか「ギターしたい」「カットマン・ブーチェしたい」とか、その思いをめっちゃ大切にしてる。ライブにしても、最初はノルマ払ってやってたところから、今は呼んでもらってなおかつギャランティをいただいてるっていうところで、仕事って思わないとあかんのかもしれないんですけど、思いたくない、こともないんですが、思いたくないとも思ってるというか。やっぱり「歌いたい」「伝えたい」って自分が自発的にならないと気持ち良くないから。そのモチベーションは持ち続けたい。スラムダンクで言ったら、赤木みたいな人でいたい。
林 その例え、難しいな(笑)。
佑龍 バスケのことが好きで好きで、ずっとバスケのことを考えていたい、というか。
小宮山 そういうことね。
佑龍 好きで始めて好きで続けてることやから、やっぱり「歌いたい」「伝えたい」と思ってやりたい。「○○たい」っていうのがいっぱいあるバンドでいたい。そう思えたら、もともとは後ろ向きなんですけど、もうちょっと前向きに生きられるかなって。
KICELL(キセル)
辻村豪文と辻村友晴による兄弟ユニット。カセットMTR、リズムボックス、サンプラー、ミュージカル ソウ等を使用しつつ、浮遊感あふれる独自のファンタジックな音楽を展開中。これまでに5枚のアルバムをリリース。最新作は08年一月に発売されたばかりの二年半ぶりとなるフルアルバム『magic hour』(カクバリズム)。 http://www.nidan-bed.com/

『magic hour』
発売中 / 2,800円
カクバリズム
![cutman-booche [カットマン・ブーチェ] Official Site](/img/head_title.gif)


